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番外編●東浜駅 ~降雪の朝~ |
1991年 2月 |
2021年 5月30日新規追加 |
東浜は鳥取県岩美町にあり、山陰本線においては県最東端の駅となる。
東浜地区は、こじんまりした湾に面した扇状の平地に集落を形成していて、海岸線には東西に長い砂浜が続く。
駅はこの集落の西端辺りの、比較的海岸に近い場所に立地している。
また、鼻をひとつ跨いだ西隣には同様の地形ながら、景観の美しさで知名度の高い浦富(うらどめ)地区があって、
この東浜と共に鳥取近郊の海水浴場群を形成している。
このように、此処にも同じ日本海の荒波が押し寄せるわけだが、
険しく入り組んだ海岸線が続く兵庫県側とは対照的な、砂丘でお馴染みの鳥取の表情となる。
東浜駅があるのは、県境の峠を目の前にした最後の集落、とでも言えるところだ。
2017年には、トワイライトエクスプレス・瑞風の停車駅となったことで、
まるで美術作品の如きガラス張りの駅舎とエントランスが新築されるなど変貌著しいが、
この動画を撮影した1991年当時は、無機質なコンクリート造の典型的な無人駅の駅舎だった。
また、駅舎の鳥取側には密閉型の跨線橋が相対式のホームを繋いでいて、
対向するホームにも立派な待合室があるのは、無人駅とは言え降雪地らしい。
構内配線は行き違いが出来る2線構成であり、駅中央付近の線路はカントを伴うカーブになっていて、
後年の新設駅であることが感じ取れる。豊岡方にある貨物側線は、既に痕跡だけになっている。
構内の分岐は、駅舎のある海(北)側の線路を直線とする、
一線スルー構造の幹線らしい構成であるだけでなく、上下線の何れにも双方向に出発信号機が設置されていて、
引き返す列車を考慮した境界駅らしい風情も持ち合わせる。
ただ、私が見た限り、当時の下り列車は通過する特急出雲も、普通列車も分岐(南)側の線路を使用しており、
実運用ではこの配線を活かしてはいないようだ。
昨日の夜半から本格的に降り始めた雪は、朝を迎える頃には軌道を覆うまでに積もっていた。
ただ、二条の轍が規則正しく続いていて、
昨夜の急行だいせんや特急出雲はいつも通りに運行されたであろう事を物語っていた。
夜が明けて周囲が白んできても、やはり雪は降りやまない。薄暗い構内の外れでは安全側線の乗越分岐の開口を示す、
転轍機標識の行灯がまだ、ぼんやりと燈っている。
午前6時46分頃に下り始発列車である、豊岡発米子行きの客車普通列車・521レが到着する。
本来ならばここで上りの2番列車である、鳥取発豊岡行き166Dと交換するのだが、
この日の521レは反対列車を待つことなく出発して行った。恐らく166Dが遅延しているのだろう。
このように、智頭急行線開業以前の山陰本線・豊岡~鳥取間では、殆どの駅に交換設備があるだけでなく、
要所には信号場もあって、これらの活用でダイヤ乱れには柔軟に対応できていたように思う。
521レを見送って暫くすると、件の上り166Dが到着した。
先頭からキハ58+キハ28+キハ47+キハ47の4両編成だ。
当時の沿線には豊岡や鳥取方向へ、まとまった通勤通学需要があって、
朝夕には普通に4~5両編成の列車が運行されていたし、
急行但馬のうち一往復は、豊岡以西が普通列車となって地域輸送を補完していた。
更に、この当時は未だ餘部橋梁の強風対策に起因する、浜坂を境界とした列車の系統分離は為されておらず、
普通列車の多くは豊岡~鳥取間を直通するものだった。
減速した列車が緩い惰行で進入すると、キハ58系のDMH17H形エンジンの柔らかなアイドリングに続いて、
キハ40系の硬質で少々耳障りな音に入れ替わる。
この時点で同車のエンジンは、未だ国鉄オリジナルのDMF15形であり、
近代的なコマツ製に換装されるのは後年のことである。
列車が停止すると、デッキがあるキハ58系の扉は開くが、後方のキハ47は半自動扱いなので動きは無い。
もちろん、現在のような旅客用ドアスイッチも未整備だった。
両開き扉の手動開閉は重かったことと、ドアに掲出された「手で開けて下さい」の銘板が懐かしく思い出される。
結局、この日の166Dは東浜駅での乗降は皆無だった。
車掌氏が手笛を吹き、扉の取り扱いが終わると列車はひとしきり、心許ないエンジン音を絞り出して動き始める。
最後尾では、見送りに手を振るかのように、運転台のワイパーが所在なげに往き来していた。
やがて、上り本線の出発信号機は停止現示に戻り、限界表示灯も消灯する。
列車は後戻りの出来ない、まるで真っ白な闇に吸い込まれるように消えていった。
(1) | 本文中の写真は、すべてが動画と同時に撮影されたものではありません。 |
(2) |
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