第15話●惜別・余部橋梁
1991年 冬/1996年 秋
2010年初稿・2020年 9月21日更新

 2010年 7月16日。同日最終の営業運転列車となるキハ181系特急「はまかぜ5号」の通過を最後に、 1912年の開通以来98年間に亘って人々の往来を支えてきた、山陰本線の旧・余部橋梁がその役目を終えた。
 連続する11基の繊細な橋脚が地上40メートルにある鋼製トレッスルを支える独特の構造と、 背後の日本海の紺碧に映える美しい朱色は、鉄道愛好者ならずとも見る人々を魅了する存在だった。
 しかし、約一世紀の年月による老朽化の進行と、 冬季を中心とした強風による運休抑制の抜本対策として、架け替え工事が進められていた。

橋梁中央部の桁に書かれた「山陰本線 余部橋りょう」の標記
 橋梁中央部の桁に書かれた「山陰本線 余部橋りょう」の標記。
 余部橋梁は、橋脚の上に短い桁を載せ、橋脚間に長い桁を渡す構成となっている。(1991年2月)
 この鉄橋は、その規模や構造美からよく知られたものだったが、 その知名度を飛躍的に高めたのは、1981年から放映されたNHKのテレビドラマ「夢千代日記」であろう。
 主人公が乗車する急行列車が余部橋梁を渡るときに起こる事象が物語の起点となっていることや、 番組冒頭のクレジットの背景として映し出された同橋梁の情景は、 ドラマの秀逸さや武満徹による叙情的な音楽と共に視聴者に強い印象を残した。
 この番組の放映によって、余部橋梁は山陰地方のみならず、日本を代表する鉄道風景になっていったと言えよう。

余部橋梁を渡る521レから望む餘部の街並
 早朝に余部橋梁を渡る521レから望む餘部の街並。
 南北の谷筋に開けた街の上空を、山陰本線が東西に跨いでゆく。
 橋は、日本海に開けた谷間を跨ぐように架けられている。 山陰本線を西へ向かう線路は、切り立った山肌のトンネルから唐突に現れると、 海岸に開けた谷間の上空を、この繊細な鉄橋で越え、再び山に消えていく。
 また、橋の一部は海岸から続く余部集落の民家群を跨ぐかたちで設置されているため、 鉄橋を渡る列車の海側座席に着席すれば眼下には集落が広がり、家々の屋根の上を飛び越えるような車窓風景となる。
 地上40メートルの高さ、連続11基の橋脚、23連の橋桁という国内屈指の規模もさることながら、 まるで都市の高架橋のような車窓風景がトレッスル橋のもとに展開するアンバランスと、 地上風景の生活感がこの橋を特別な存在にしているであろう。

雪の日の餘部駅ホームから余部橋梁を望む
 餘部駅のホームから京都方に望む余部橋梁。
 雪の止み間に、上り普通列車が静かに去ってゆく。(1991年2月)
 橋の袂には昭和34年に設置された餘部駅がある。
 徒歩でしか辿り着けない、九十九折(つづらおり)の急峻な山道を登ったところに山肌を削って作られた、 1面1線のホームに小さな待合室だけがある無人の小駅だ。
 平成も20年を超えた今では、この駅に停車するのは数両のキハ41やキハ47で組成されたローカル列車だけだが、 ホームは橋の袂に始まり何処までも続いていて、 大阪・京都から鳥取・米子方面を直通する列車が行き交っていた、かつての基幹路線・山陰本線の栄光を物語っている。

余部橋梁を渡る12系客車による普通列車
 豊岡から下ってきた米子行き始発列車の521レ。今朝もいつも通り、6時15分に余部橋梁を渡っていった。
 動画でお目にかけるのは、山陰本線に最後まで残存した客車普通列車である521レを中心に、 1991年と1996年に橋梁周辺で撮影した情景を織り交ぜてまとめたものだ。
 この12系による客車普通列車の521レと522レは豊岡〜米子間の運行であり、 その末端区間となる兵庫県内では始発列車と最終列車という位置付けだった。 そのため521レの場合は必然的に早朝の撮影となり、すでに季節も晩秋であったことから暗い映像となってしまった。
 また、動画の最後の部分は更に真っ暗な映像で恐縮だが、 上り最終列車の522レが余部橋梁を渡る光景を記録したものである。

余部橋梁を渡る客車普通列車の521レ
 早朝に餘部橋梁を通過する521レ。
 鎧駅側の山腹に開いたトンネルを唐突に飛び出すと、鉄橋上で減速して餘部駅に到着する。
 撮影は、山陰本線の12系客車による普通列車の廃止がアナウンスされた後に行ったが、 同線のスターである特急出雲はまだ安泰で、12系客レの廃止はファンにとっては大きなニュースでは無かったようだ。
 記念乗車に訪れるファンは散見される程度だったし、 有名な餘部駅の「お立ち台」における撮影でも、先客こそ来られていたが人数は僅かであり、 和やかに撮影出来たことを記憶している。
 架け替えを控えた、昨今の余部橋梁とは対照的な風景の中で、 山陰本線最後の客車普通列車は静かにその姿を消していった。

●おことわり
(1)  本文中の写真は、すべてが動画と同時に撮影されたものではありません。
(2)  本稿の動画はご覧のウィンドウサイズに応じて最大1280×720ピクセルまで拡大、あるいは全画面表示ができます。
 但し、元動画はアナログテレビジョン程度の解像度で撮影されたものですので、ぼやけた画像となることをご理解下さい。


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