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●居組駅 ~はまかぜ2号と出雲3号の交換~ |
1991年 2月 |
2008年初稿・2019年12月29日更新 |
居組は山陰本線の兵庫県最西端の駅だ。
県境の駅を象徴するかのように三方を山に囲まれ、
同名の居組集落は北側に800メートル余りも離れていて駅の周辺に人家は無い。
これより西へ向かう線路は、最後の分岐を過ぎると直ちに、
急峻な山肌に小さく開いた陸上(くがみ)トンネルに吸い込まれる。
このような立地故に、此処はいわゆる秘境駅として紹介されることもあるようだ。
ただ、駅は2面3線を有し、行き違いと追い抜きに対応するのみならず、
旅客ホームが跨線橋を挟んで千鳥に配置されているので、構内はゆったりとしていて秘境駅らしからぬ規模である。
これは西隣の東浜駅が戦後開業であり、それまで岩美駅との駅間距離が長かったことを考えれば、
待避容量を大きくする必要があったからとも考えることができる。
この映像を撮影した1991年は、智頭急行線は未だ開業しておらず、
山陰方面への道路事情も良くなかったことから、山陰本線は鳥取や米子方面への主要な交通手段だった。
このため、客車普通列車こそ既に晩年の運行形態に落ち着いていたものの、
この区間には東京からの寝台特急出雲の2往復をはじめとして、大阪からのキハ181系特急はまかぜ3本、
京都からの特急あさしおも2本が鳥取以遠への乗り入れ便であるなど、まだまだ本線らしい活況を呈していた。
朝7時20分頃、陸上トンネルの暗闇の中にキハ181のヘッドライトの明かりが現れる。
鳥取を6時55分に出発した大阪ゆきの特急はまかぜ2号だ。
はまかぜは通常5両編成であるが、この季節は兵庫県北部への観光輸送の最盛期にあたるため、
2両増結されて堂々の7両編成となっている。
はまかぜ2号は陸上トンネルを特急らしからぬ低速で飛び出すと、運転停車ゆえにホームの先端を行き過ぎて停車した。
静まり返った駅構内には7両編成・計9基のエンジン音だけが響き、紫煙は朝の冷えた空気に触れて低く淀んでいる。
はまかぜ2号が停車して2分ほどすると再び、2番線への列車の接近を知らせる音声案内が流れる。
案内放送の待機音が止んで間もなく、はまかぜの車体がヘッドライトを反射してギラリと光り、
DD51に牽引された14系寝台車の出雲3号が現れる。
DD51の独特の6軸ジョイント音に始まり、8両編成は瞬くうちに通過する。
最後にスハネフ14の発電エンジンの唸りを残して、列車は陸上トンネルに消えていった。
特急出雲3号は、ここ居組を6時40分に出発した長距離客車鈍行の米子ゆき521列車を更に西の浦安で追い抜き、
終着駅である出雲市を目指す。
この撮影の後、城崎-鳥取間の山陰本線を取り巻く状況は激変した。
1994年末の智頭急行線の開業により京阪神から鳥取への輸送ルートとしての使命を明け渡し、
特急はまかぜは行き先を香住・浜坂・鳥取に短縮されて、神戸・播磨地域からの観光列車に特化していった。
更に1996年春の丹波地域の電化完成によって、
「北近畿ビッグXネットワーク」と呼ばれる優等列車網の再編が行われ、
観光輸送の主軸は城崎以東に集約され、特急あさしおも廃止された。
また、寝台特急出雲も利用低迷を理由に2006年3月に廃止されたことは記憶に新しい。
一方、設備面でも老朽化した余部橋梁の建て替えに着手した一方で、
列車減便に伴って居組駅の待避線や柴山駅の通過線が廃止され、
相谷・滝山の両信号場での待避設定も無くなった。
更に2008年春のダイヤ改正では、鎧・久谷・居組の交換設備の使用が停止されたことで、
佐津-香住-浜坂-東浜が実質的に単閉塞区間となるなど、急激にローカル化が進んでいることは、
高速化された鳥取以西の活況とは対照的である。
2008年7月現在、居組駅の近くに大規模な道路構造物が完成しつつある。
鳥取豊岡宮津自動車道の東浜居組道路区間だ。
山陰本線に並行する国道178号線の兵庫・鳥取県境は「七坂八峠」と通称され、
九十九折で山を越える難所であったが、
この高規格新道の開通によって居組-東浜間はトンネル1本で直結され
、特に冬季の安全性・速達性は大幅に改善されよう。
この撮影を行った1991年当時、トンネルは道端の請願看板に描かれた夢物語に過ぎなかった。
それから17年を経て地域の夢が現実になった現在、時の流れに感慨すると共に、
鉄道の存在意義について考えさせられる光景でもあった。
(1) | 本文中の写真は、すべてが動画と同時に撮影されたものではありません。 |
(2) |
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