●宇賀本郷駅
1992年 3月
2008年初稿・2019年11月11日更新

宇賀本郷駅近くから望む響灘に沈む夕日
 宇賀本郷駅を18時07分に発車する長門市発下関ゆき825レが去ったあと、響灘に沈む夕日を駅近くから望む。
 強風が吹きつけるのだろうか。海岸沿いには防風柵らしきフェンスが並ぶが随所で損壊していた。

 山口県内の山陰本線は要衝・長門市から更に下ると、北側に日本海、そして油谷湾の海岸線を望みつつ西へ進むが、 阿川を境に一旦内陸部へと進路を変え、特牛・滝部・長門二見を経て再び海辺に戻る。 そうして眼前に現れる西側に開けた海が響灘であり、海辺へ出て最初の駅が宇賀(うか)本郷だ。
 駅の周辺は、響灘を望む海岸線が南北に続き、東側には山が迫っている。 更に海と山の間には、海側に山陰本線、山側に国道191号線が並行して走り、 これらの海側に耕地、山側に小さな集落というロケーションとなる。
 この駅は昭和33年に出来た新駅であり、それ故に駅の設備は短い旅客ホームにほんの小さな待合室、 そして待合室から少し離れた場所にある粗末なトイレだけだ。
 この駅のホームは有効長が4両分なのだが、 間近にある踏切を跨ぐのを嫌ったのか、上りの客車列車は機関車がホームに掛かって停車する。 そのため、乗降が出来るのは前から3両目までで、4両目以降はドアカットでの運用だった。
 一方、下りの客車列車は機関車がホームを外れる設定だったので4両編成でもドアカットされることは無かった。

宇賀本郷駅に停車中の824列車
 宇賀本郷駅に停車中の824レ・長門市ゆき。
 客車は6両繋いでるが、4両目から後ろはドアカットされていて扉が閉まっている。 車掌はこの4両目に乗務してしていた。

 山陰本線・長門地域の客車列車は1991年3月改正で大幅に整理され、 このビデオ撮影の時点では朝夕の通勤通学列車として、 下関~小串・長門市間と長門市~益田間に合計4往復が残存するだけとなっていた。
 特に、長門市~益田間は朝だけの1往復だったので、朝は長門市以東の撮影を優先し、 長門市以西は夕方というパターンを取らざるを得なかった。
 ダイヤ改正を間近に控えた3月は未だ日が短い。 朝夕しか走らない客車列車ゆえに、できるだけ明るい時間に上下2本両方の撮影をと欲張ると、 客車列車同士の交換駅である湯玉に近い場所を選択せざるを得ず、 宇賀本郷は必然的に選ばれた撮影場所だった。

宇賀本郷駅に到着した825列車を牽引するDD51
 宇賀本郷駅に到着した825レを牽引するDD51。
 下り列車は機関車がホームを外れて停車するので4両編成まで収容できる。線路の傍には停止位置標識が見える。

 動画で紹介するのは、夕方の長門市発下関行き825列車だ。
 列車は下関区(広セキ)所属の50系客車4両編成で、 16時57分に長門市を出る。 これは、前年3月まで運行していた下関~浜田間のスジの名残りである。
 この列車の任務は主に通学輸送であり、主要駅で乗車した高校生達を三々五々降車させながら、 18時07分に宇賀本郷に到着する。
 映像には「645」と標記されたのキロポストが映っていた。
 ここはもう本州の西端。「遥けくも来つるものかな」と感慨を覚えてしまう。

宇賀本郷駅に停車中の825列車
 宇賀本郷駅に停車中の825レ・下関ゆき。
 暖房蒸気は勢い良く吹き上がり、尾灯の霞む最後尾が客車列車の旅情を盛り立てる。

 今日の825列車は、最後尾のオハフ50から勢いよく暖房蒸気が吹き上がっていた。 暖房蒸気の白煙は冬の山陰の風物詩であり、デッキの仕切り扉を開けた時に感じる温もりは、 旧型客車の頃と何も変わらない。
 この車端部からの暖房蒸気の排気は決まったものでは無く、締め切ったケースもよく見受けられた。 機関車のSG(蒸気発生器)からの送気圧や車内の暖房の利き具合を勘案して、車掌が取り扱いを決めるのだろうか。
 そういえば、旧型客車全盛時代の春先のこと、 車掌が機関士に、暖房蒸気の減圧を無線で要請しているのを聞いた覚えがある。

湯玉駅の遠方信号機付近を通過する825列車
 湯玉駅の遠方信号機付近を通過する825レ。
 次の湯玉駅では824レと交換するので減速を現示している。従属信号機なので列車が通過しても現示に変化は無い。

 ここ宇賀本郷の手前から小串にかけて、線路は西長門海岸の風光明媚な海岸線を走るが、 その風景は山陰本線のゴールも近いこの地においては、白砂青松という表現が似合う穏やかなものだ。
 山陰本線が幹線であるとはいえ、ここに展開するのどかで魅力的な客車列車風景は、 私を強く惹きつけてやまなかった。
 宇賀本郷は既存駅間に追加されたゆえか、次の湯玉駅との間隔は短い。 ただ、短いトンネルのあるSカーブで緩い峠を超える必要があるので、 宇賀本郷駅から程遠くない場所に湯玉駅の遠方信号機があって、橙と青の2灯が点灯しているのを確認できる。 この列車は同駅で上りの客車列車と交換するので、必然的に減速現示となるわけだ。

宇賀本郷駅の駅名標
 宇賀本郷駅ホームの長門市寄り端部に設置された駅名標。
 山陰本線はこの先も響灘の海岸線に沿って北上し、長門二見の手前で唐突に内陸部へと向きを変える。

 下り825列車は宇賀本郷駅での客扱いを終えると、峠の前に暫く続く平坦線を静かに加速して行く。
 そして、前述した遠方信号機の減速現示に促されるかのように、 緩やかな勾配をゆっくりとした足取りで登って行き、やがて視界から消えていったのだった。

●おことわり
(1)  本文中の写真は、すべてが動画と同時に撮影されたものではありません。
(2)  本稿の動画はご覧のウィンドウサイズに応じて最大1280×720ピクセルまで拡大、あるいは全画面表示ができます。
 但し、元動画はアナログテレビジョン程度の解像度で撮影されたものですので、ぼやけた画像となることをご理解下さい。

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